ファミコン風ADV「凍える銀鈴花」がイマイチな理由を考える

2019年1月に発売されたファミコン風アドベンチャーゲーム「伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠」。発売当時、その懐かしさを感じるドット絵に加え、8bitなBGM、さらには「ばしょいどう」などの古臭いコマンド式アドベンチャーであることで、レトロゲーム好きな人たちを中心に話題になった作品です。

キャラクターデザインを、往年の名作「オホーツクに消ゆ」の荒井清和氏が手掛けており、そういった面でも大きな話題になりました。

そして今回レビューする「凍える銀鈴花」はその第二弾として2020年12月24日に発売されました。正式タイトルは「秋田・男鹿ミステリー案内 凍える銀鈴花」であり、その名の通り、秋田県の男鹿半島を中心としたストーリーとなっています。

プレイヤーは、警視庁捜査一課に勤める刑事となり、相棒の開明寺ケン(超今さら気づいたんですが、事件解明→ジケンカイメイ→カイメイジケン→開明寺ケンなんですね)とともに操作を進めていくことになります。

このゲームの特色として、前作も今作もタイトルに「ミステリー案内」とついているのですが、舞台となる地方の観光名所や名産などの解説がいたるところに散りばめられており、そこも人気のポイントとなっています。

凍える銀鈴花 ゲーム画面
懐かしいコマンド式アドベンチャー

自分はSwitchを購入したのが昨年だったため、「偽りの黒真珠」をプレイしたのもほんの数ヶ月前。そしてその直後に「凍える銀鈴花」が発売されたので、前作、今作と立て続けにプレイしたのですが、今回はそのクリアしたての「凍える銀鈴花」について、プレイした感想をイチ素人ゲーマーの目線から好き勝手にレビューしていきたいと思います。

結論から言うと、この記事のタイトルどおり、自分的にはイマイチなゲームではあったんですが、それだけではただの批判になってしまうので、良かったところ、個人的に合わなかったところ、根本的に改善してほしいところ、という3点にまとめて書いていきたいと思います。

良かったところ

観光名所やグルメ情報が盛りだくさん

先程も言ったように、本作は「ミステリー案内」と冠がつくように、その地方の特色を色濃く出そうという姿勢が大きく表れたゲームとなっており、秋田県の観光名所や名産品をこれでもか、と推してきます。名作「オホーツクに消ゆ」も北海道の様々な地域を渡り歩く物語でしたが、本作はそれをさらに一歩踏み込む形で取り入れており、それがオリジナリティを出す装置のひとつとして機能していると思います。

凍える銀鈴花 秋田駅
秋田駅のなまはげも再現されていたり
凍える銀鈴花 グルメ解説
こんまんはたぶん「金萬」のことかな

前作より遊びやすくなったゲームシステム

これは、前作「偽りの黒真珠」をやっていないと感じないところではあるんですが、ところどころでゲームシステムの改善がなされており、前作よりも遊びやすくなっています。

既読の文章を高速スキップできたり、前作はセーブスロットが1つだったのが3つになったり、フォントもドットだけじゃなくて読みやすい高解像度フォントが選べたり、と最近のゲームなら当たり前のことばかりではあるものの、本作はレトロテイストが持ち味のゲームなので、あえて不便さを残すという選択肢もあったとは思うんですが、遊びやすさを優先したこの改善は評価できるポイントだと思います。

ニヤリとさせられる「オホーツク」成分

おそらくこのゲームの製作者も「オホーツクに消ゆ」好きなんだろうなあ、と思わせられる「オホーツク」成分みたいなものがたまに見受けられるんですが、個人的にはそういったニヤリとさせられる小ネタは大好きなので、そういった側面からも楽しむことができました。

「オホーツクに消ゆ」をプレイしたことがある人ならみんな大好き、もんべつのおばあさんの名ゼリフ「はずかスー」も出てきます。

個人的に合わなかったところ(好みの問題)

余計なテキストが多すぎる

個人的には、前作にも増して「これ要る?」と思うテキストが大幅に増えた感じがしました。先程、このゲームの良いところとして「観光案内コンテンツ」を挙げましたが、それはこのゲームのオリジナリティを出すものとして必要なので、そういったテキストが多いのは全然許容範囲なんですが、それ以外の、なんでこのシーン作った?的なものがとにかく多すぎると思います。

例を挙げると

  • 秋田駅の北口か南口か迷うくだり
  • アパートの鍵をかけ忘れたかどうか迷うくだり
  • ラーメン屋でビールをこぼしてしまうくだり

などなど、観光案内的なものでもなければ、事件に関係あるものでもない、ただただ冗長なテキストを読まされることが多い。

おそらく、上記の3つに関しては、相棒であるケンのおっちょこちょいな性格や軽いキャラクターを描きたかったんだと思いますが、プレイヤーは捜査がしたいのであって、キャラゲーをしたいわけではないので、そういう描写はそこそこにして、あとはプレイヤーの想像力に任せてもいいんじゃないかな、と思います。

捜査してる感が薄い

前述の「余計なテキストが多い」というのも理由のひとつにはなっていると思うのですが、なんか前作も今作も、刑事として捜査している感があんまりないんですよね。

もちろん、現場検証や犯人の追跡などはあるので、最低限の刑事モノポイントは押さえているのですが、それ以外で、刑事が捜査をしているという感覚がだいぶ薄かったように感じます。

たとえば物語序盤のシーンで、押収したパソコンが壊れるかもしれないのでパソコンショップに持ち込む、というのがあるのですが、捜査一課の刑事がやることではないと思いますし、街での聞き込みひとつとっても、基本なにも得られないことが多いので、ただただ観光に来てるみたい。

これが、たとえば主人公たちが、二時間ドラマでよくあるところの「なぜか事件に遭遇して解決してしまう、たまたま観光に来ていた頭の良いおばちゃん」とかだったら全然アリだと思うのですが、いかんせん捜査一課の刑事なので違和感がありまくりでした。

そもそも、なぜ東京の捜査一課が秋田に出張ってるのに二課は来ないんですかね?たしか、もともとは二課の応援に来ていたんじゃなかったんでしたっけ?秋田に本拠地があるかも、と分かった段階ではまだ殺人とか起こってなかったのに。

根本的に改善してほしいところ

前述の2つの点は、書いたとおり好みの問題でもあるのですが、このゲームにはどうしても拭えない、同人っぽさというかゲームとしての致命的な安っぽさ、みたいなものがあります。

それが、絵と文と音楽、です。

こう書くと、そんな当たり前な要素を今さら説明せんでも、と思われるかもしれませんが、これはストーリーや絵のテイストがどうとかいう中身の部分ではなく、根本となる「伝え方」みたいなもので、もうちょっと具体的に言うと

アングルとテンポと臨場感

です。

これは、新しいとか古いに関係なく、またゲームだけではなく平面で見せるエンターテイメント(映画とか漫画とか)に共通して言えることだと思っています。

アングルについて

このゲーム、観光名所をはじめ数々のシーンがあるにも関わらず、どれもあんまり印象に残らないのですが、その最大の理由がここにある、と個人的には思っています。

2つのシーンを並べて見たら分かるかもしれませんが、このゲーム、基本的に「画面の右側に人物スプライトがあり左半分に背景が描写されている」というテンプレート構成がほぼ最初から最後まで続くんです。(もちろん一部違う場面もありますが)

凍える銀鈴花のレイアウト比較
刑事も犬も同じレイアウト

そのため、話す人が変わるたびにいちいち右側の人物表示が入れ替わるし、当然、2人以上の人が表示されることもない。さらには、せっかく観光案内を謳っておきながら、画面の左半分でしかそれが描写できない。

プレイヤーである「センパイ」の目線で言うと、ずっと「目の前の人がこちらを向いて立っていて、その後ろに風景が見える」という真正面アングルで物語が進むんです。

これは憶測ですが、おそらく制作費が少ない中でゲームを作るには、ある程度テンプレート化したほうがコストも時間もかからないでしょうし、効率的な制作手法だったのかもしれませんが、それが故にひとつひとつのシーンが希薄になってしまっているのは否めないと思います。

本来、比較するものではないのかもしれませんが、「オホーツクに消ゆ」や「ポートピア連続殺人事件」に代表されるファミコン時代の名作アドベンチャーは、さまざまなシーンの切り取り方で、ドット絵という武器を最大限に生かした表現をしていたと思います。

たとえば、オホーツクに消ゆの知床五湖での事件が解決したあと、名曲「追跡」が初めて流れる病院前のシーン(画像左)。

オホーツクに消ゆのアングル1

基本的に相棒のシュンが出て来る時は、画像右のように少し遠目から小さめに描かれていることが多かったのに対し、このシーンだけはバストアップでかなり大きく描写されています。プレイヤーからすると、突然大きく映されたシュンを見ることで、「いよいよ大詰めに向かってるんだな」という意識を植え付けられる印象的なシーンとなっています。

この病院前のシーンは何度か出てきますが、その度にシュンが事件を整理したり自分の想いを語ったりする重要な場所なので、あえてシュンの決意に満ちた表情が分かるくらいのアップにしたんだと思います。

オホーツクに消ゆのアングル2
事件現場からはじまるファーストシーンと、カウンター越しのおかみも印象に残る

さらには、ポートピア連続殺人事件のひらたの死体を発見したシーン(画像左)。

ポートピア連続殺人事件のアングル

中央にはなにもなく、左右に大きな木があり、右端にひらたの死体がシルエットで描写されています。このアングルが、ドット絵の無味乾燥さと合わさって、ものすごく印象的な恐怖を醸し出していると思います。

右の画像、かわむらの死体発見シーンも、遠目から、開いたドアの先にかわむらの死体が見える、というちょっと近づきがたい雰囲気を印象づけるアングルになっています。

こうやって比べて見てみると、本作「凍える銀鈴花」の絵としての単調さ、伝えることの弱さが、より強く感じられてしまいます。

テンポについて

ここで言うテンポは文章のテンポのことなんですが、テキストベースのゲームにおいては、文章のテンポの良し悪しがゲーム全体の印象を大きく左右すると思います。

要するに本作は文章のテンポが悪い、というお話なんですが、以前製作者のインタビューで「あえて口語体で、多少日本語がおかしくても、自然に会話しているように意識した」というのを見かけたのですが、その狙いがうまく機能していないんじゃないかなと思います。

ファミコン時代のアドベンチャーゲームが、その容量の少なさも相まって、とにかく文章をシンプルかつ簡潔にまとめているのに対し、「凍える銀鈴花」はひとつひとつの文章が長く、情報量が多すぎる印象。

たとえば、ケンが「こんまん」について語っているこのシーンも

凍える銀鈴花 グルメ解説
  • カステラ生地である
  • ふっくらして香ばしい
  • 白餡が入っていて上品な甘さである
  • とても美味しかった

という4つの情報を1ページで一息に表示しているので、なんとなくごちゃついてしまっているので、せめて

やきたての こんまんは カステラきじがふっくらで こうばしく▼
しろあんの じょうひんなあまさと あいまって とても おいしかったです。▼

とページ送りすれば、プレイヤー側は、4つの情報を2、2で分けて処理することになり、より頭に入って来やすいんじゃないかなと思います。もしくは、メタルギアソリッド3でスネークが、カロリーメイトなどを食べると「美味すぎる!」と叫びますが、美味しさを伝える方法って、文章でダラダラ書くだけではなくいろいろあると思うのです。

他にも、このゲームやたら挨拶したりお礼言ったりするんですが、さすがにその辺は省略しちゃってもいいんじゃないかなと思いますし、聞き込み時もひとつの質問に対して、どうでもいいやりとりを3ページも4ページも読まされるなど、テンポが悪いことが多く、快適にプレイできるとは言い難いんですよね。

何度も比較して申し訳ないのですが、やっぱりファミコン時代のアドベンチャーゲームは、その「いかにストレスなく、分かりやすくプレイヤーに伝えるか」の工夫が徹底されていたと思います。

オホーツクに消ゆ 文章のテンポ1
長々と語らずに端的に伝えたり、メタ表現で伝えたり
オホーツクに消ゆ 文章のテンポ2
長文では語り手を変えたり
さんまの名探偵 文章のテンポ
さんまの名探偵もシンプルだけど分かりやすい文体

文章を読む時って、あまりに長文だと最初に書いてあることをわすれちゃったりすると思うのですが、本作も、文章を読んでいて「結局なんだったんだっけ?」みたいなことがしばしば起きます。

まあ、僕の脳ミソのキャパが少ないのを差し引いても、情報量の多いアドベンチャーゲームにおいては、もうちょっと頑張ってほしいポイントかなと思います。

臨場感について

このシリーズのアマゾンレビューを見てみると、とにかくBGMについてのネガティブな感想が多いんですが、個人的にもそこは大いに同意するところで、比較されがちな「オホーツクに消ゆ」が捨て曲ナシの全曲名曲という鬼ラインナップだったのに対し、本作は「あれ?自動作曲ソフトで作ったのかな?」というレベルのBGMがいくつもあります。

前作も今作も、主題歌を作った作曲家・森彰子さんという方がBGMも担当されているようなのですが、主題歌はいかにもな二時間サスペンス風歌謡曲としてしっかりと作られているのに対し、BGMはどうしてこうなった感が否めない。

ただ、前作「偽りの黒真珠」と比べると、だいぶ「聞ける曲」は増えていて、単体で聞いたら、おそらくは悪くない曲もあるんですが、全体的にポップというかのんきな曲調が多く、刑事モノ的な雰囲気を感じないんですよね。

前述したとおり、このゲームの主人公が刑事ではなく「たまたま事件に遭遇しちゃった頭の良いおばちゃん」とかだったら、このほのぼの感はむしろアリだと思うのですが、いかんせん捜査一課の刑事が捜査をしている時のBGMとしては、とてつもなくちぐはぐな感じ。

もちろんシリアスなシーンではそれっぽいBGMが流れるのですが、それもあんまりキャッチーじゃなかったり、ゲーム中盤で廃校を探索する場面などでは、シリアスなBGMにも関わらず、コマンドを実行するたびにいちいち曲の頭から再生しなおすので、どことなく滑稽になってしまっています。

とにかくこの「凍える銀鈴花」というゲーム、殺人事件を追うアドベンチャーなのに、緊張感が全然ないんですよね。それはケンのキャラクターが軽すぎたり、全般的に観光中心で捜査している感がなかったり、というのも影響しているとは思うんですが、BGMも原因のひとつなのかな、と思います。

やっぱり刑事モノである以上、いわゆる「刑事モノっぽさ」みたいなのを分かりやすく出さないとプレイヤーには臨場感は伝わらないんじゃないかな、と思います。あと、電話の音だけやたら大きいのやめてほしい。

まとめ・それでもやっぱり応援したい

以上、好き勝手書いてきましたが、前作、今作とプレイしてきた人間としては、ぜひとも第三弾も発売してほしいと思っていますし、出たら絶対買います。

こういった、往年のゲーマーがワクワクするような取り組みってあんまりないですし、このシリーズのコンセプトというか命題みたいなものは、ひとりのおっさんゲーマーとして大いに応援したいところであります。

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